坂東玉三郎と言えば、現在歌舞伎界の最高峰の女形で人間国宝。その美しさもさることながら、芸に対する真摯な姿勢も他の追随を許しません。2020年の大河ドラマ「麒麟がくる」の美しく高貴な帝、正親町天皇を記憶されている方も多いかもしれません。私はこの20数年、玉三郎さんに魅了され続けている一人です。

最近では、歌舞伎・舞踊公演以外にも、朗読会やコンサート(シャンソンだって歌います)、トークショーも多く開催されています。関東近郊で開催されるものは基本すべて行くようにしていますが、中でもお人柄や考え方がよくわかるトークショーや講演会はできる限り行っています。

特にお話がお上手なわけではありませんが、誠実にお話をされる姿に引き付けられます。それにもまして、お話の中にビジネスパーソンとしてはっとさせられることがとても多いのです。いくつかその内容をあげてみます。
(私の記憶に基づくものなので、細かいところは間違っているかもしれません)。

「今日と明日だけを見ている」
うんと先にこうなりたいということは漠然と頭に描き、そこに向けての基本的な努力はします。しかし、具体的な目標は立てません。今日と明日を乗り切るためにどうするかだけを考えます。なぜなら、うんと先の目標を立てて、そこに向かうと、目標が間違っていたり、思った通りにできなかった場合、もう一度やり直すのには時間がかかりすぎるからです。今日と明日のスパンで考えていれば、間違った時の修正がすぐにできます。

このお話は頻繁にされています。ご本人はそんなことは意識されていないとは思いますが、これってまさにアジャイル思考ですよね。

「お客さまにつかの間の夢を見ていただけるように」
アスリートや若い役者さんが、「皆さんに勇気や夢を与えたい」という発言をされるのを聞きます。私は、「与える」という言葉に違和感を覚えます。
玉三郎さんは、「お客さまが劇場にいらっしゃる間、つかの間の夢をみていただくことが私の役割」ということをよくおっしゃいます。同じことを言っているのかもしれませんが、根本的に異なるように思います。

自分ができることを発信するのではなく、どういう存在でありたいのかを発信する。そこに大きな違いを感じます(贔屓目でしょうか)。

これこそ、今よく言われているパーパス、存在意義の話ではないでしょうか。

そのほか、地方の舞踊公演では口上をされているのですが、よりお客さまに夢を見ていただくため、口上の途中で打掛披露をされるようになりました。お客さまがより喜んでくださるようにと、新しい打掛を作られます。それはただお客さまのためだけではなく、織や染色、刺繍の職人の伝統的な技が廃ることの無いような配慮でもあります。

最近、CSRやデザイン経営などの例えとして、「近江商人の三方良し」が使われますが、まさにそうした精神だと思います。

玉三郎さんはあるインタビューで「こだわりに向かって努力しただけ」と発言されています。

こうした話を聞くに、存在意義とは自分が与えられた役割に対し、覚悟をもって真摯に取り組む者にしか得ることができないのではないかと思います。

【坂東玉三郎】「こだわりに向かって努力しただけ」完全版

https://www.youtube.com/watch?v=ZRTAQdm5_qk

まだまだ印象的なお話はたくさんありますが、本日はこれぎり。