NHKの「あしたが変わるトリセツショー」という番組を観ている。食・健康などの生活に必要なテーマに沿って、実験や調査、最新の科学に基づいたお役立ち情報を「トリセツ」として紹介する番組だ。血管ケアの方法や冷凍ワザについてなど、さまざまなテーマを軽めのアプローチで掘り下げてノウハウやお役立ち情報を紹介してくれる。取り上げたテーマに対する取扱説明書のPDFが用意されていて、URLからダウンロードできるようになっていることがこの番組の特徴だ。職業柄、気になってダウンロードしては、一人、突っ込みを入れたりしている。石原さとみがMCをつとめているせいか、華やかで親しみやすい番組になっているが、「取扱説明書」という地味な素材を「トリセツ」と呼んでいることも親しみやすさの一役を担っているように思う。

電化製品に付属されている取扱説明書は、とっつきにくくて読む気がしないというイメージを持たれていることが多く、いかにユーザーに読んでもらえる取扱説明書を作るかというのが、取扱説明書の制作にかかわる者にとって長年の課題だった。「取扱説明書」という言葉そのものに拒否反応を持ってしまう人も多くいた。ところが、数年前の西野カナさんのヒット曲「トリセツ」や、黒川伊保子さんのベストセラー「妻のトリセツ」あたりからだろうか、状況が少し変わってきたように感じている。そのころから「取扱説明書」を「トリセツ」と略したカタカナ表記をよく目にするようになった。カタカナ表記になった「トリセツ」は、その対象を家電以外にも広げ、とっつきやすく身近な言葉へと進化した。近年は自分のトリセツを作る人が増えているらしい。快適な日常の過ごし方や、気分のすぐれないときの対処方法などを客観的に分析し可視化することで、毎日を心地よく過ごせるようになるだけでなく、自分自身の価値観が明確になるのだそうだ。

仕事では電化製品や医療系機器に付属する取扱説明書の制作が主となっているが、対象にとらわれず、さまざまな分野のトリセツを読むことで分析の手法や可視化の手段の引き出しを増やし、取り扱い情報の伝え方を進化させていきたいと思っている。また、取扱説明書がトリセツになり、少し身近になった今、これまでの既成概念にとらわれない取扱説明書の制作を目論んでみたい。