7月から9月初旬にかけて、弊社は統合報告書の翻訳依頼が集中します。企業各社の都合として、海外向け情報公開も鑑み9月までには統合報告書を発行したいという事情があるようです。

さてこの統合報告書にも関連してよく登場してくるキーワードに「サステナビリティ」、「SDGs」、「ESG」、「CSR」があります。テレビやインターネットのニュースなどでも盛んに取り上げられていることばですが、抽象的であったり似た意味で使われたりすることも多く、それぞれの意味について明確に説明しようとすると難しいのではないでしょうか。

そこで私のアタマの整理も兼ねて、事実以外の背景や意図については私なりの解釈も交えながら、以下にそれぞれのことばを説明してみます。

サステナビリティとは?

これは英語で Sustainability、日本語では「持続可能性」と訳されるものです。とは言っても日常的な生活の中で使うような馴染のあることばではありませんね。

楽器をやる方には馴染みのある「サステイン」ということばがありますが、これは音が完全に消えるまで鳴り続けている状態のこと。このサステイン(持続状態)のアビリティ(能力・可能性)ということでサステナビリティ=持続可能性ということ。つまり、サステナビリティとは、どのくらい継続し続けられるのかという能力や可能性を示す概念的なことばです。

このことばの使われ方を理解するには、社会背景に目を向ける必要があります。

例えば国家や企業が目先の利益だけを追いかけると、公害や人権侵害などの実態に目が向かなくなります。人類は長い歴史の中で、このような事態を放置すると、長期的な視点では組織にとっても社会にとっても「健全な活動を続けられる」状態を壊してしまうことを学んできました。

サステナビリティは、この健全な活動を続けてゆくための可能性・能力という価値に、世界が注目していることから広く使われている概念です。

SDGsとは?

サステナビリティの概念を世界中で意識させ、実際によりよい世界を実現させることを目指し国連は動きました。国連は2015年の総会で2030年までに達成すべきとした17の開発目標(がんばり目標とでも言いましょうか)を決めました。これがSustainable Development Goals、略してSDGs、日本語では「持続的な開発目標」といわれるものです。

SDGsは17のゴール・169のターゲットから構成され,地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っています。以下はその17のゴールです。

  1. 貧困をなくそう
  2. 飢餓をゼロに
  3. すべての人に健康と福祉を
  4. 質の高い教育をみんなに
  5. ジェンダー平等を実現しよう
  6. 安全な水とトイレを世界中に
  7. エネルギーをみんなにそしてクリーンに
  8. 働きがいも 経済成長も
  9. 産業と技術革新の基盤をつくろう
  10. 人や国の不平等をなくそう
  11. 住み続けられるまちづくりを
  12. つくる責任 つかう責任
  13. 気候変動に具体的な対策を
  14. 海の豊かさを守ろう
  15. 陸の豊かさも守ろう
  16. 平和と公正をすべての人に
  17. パートナーシップで目標を達成しよう

SDGsはサステナビリティの概念を背景に、何を達成してゆくべきか分かりやすく表現したものと言えます。国連という国際機関で期限の決められた目標として掲げられていることから、政治やビジネスの世界に限らず、広い社会活動の中でこのSDGsが取り上げられているというわけです。

ESGとは?

サステナビリティを背景に、企業の価値を計る新しい基準として、国連事務総長のコフィー・アナンが2006年に次の3つの視点を発表しました。

Environment(環境):環境にやさしい事業活動か
Social(社会):社会にも良い影響を与えているか、労働者に寄り添っているか
Governance(ガバナンス):公平に情報開示をして法令を順守しているか

ESGはこの上記3つの視点の頭文字をとってつくられたことばです。

ESGは、投資判断など企業を評価する際の視点として語られているものであり、SDGsに比べてビジネスにフォーカスしたことばであると言えます。投資家はこのESGの視点で企業を評価し、企業はこの視点で自社の価値を表現するというイメージです。

CSRとは?

CSRとは「Corporate Social Responsibility」の略で、日本語では「企業の社会的責任」と訳されます。

Corporateということばが含まれる通り、CSRは企業活動やビジネスにフォーカスしたことばです。ESGとも似ていますが、ESGは企業評価として企業外部からの視点であるのに対して、CSRは企業が運営を続けていく上で意識すべき責任として、企業内部からの視点である印象があります。

CSRを意識し宣言している企業は、自社のことだけを考えているのではなく、利益を社会とも共有し、環境にやさしく、人権に配慮した商品を提供しているということをアピールすることになります。

まとめ

以上、サステナビリティ、SEGs、ESG、CSRについて語ってきました。それぞれ似たような使われ方がされますが、すべてまずサステナビリティという概念が根底にあり、それに関連してそれぞれの視点での用語が生まれてきました。

国際的な目標としてのSDGs、企業の価値尺度としてのESG、企業が意識する社会的責任としてのCSR、という使われ方がされるというわけです。

おまけ:企業が発行する各種レポートの違いについて

冒頭で統合報告書に触れましたが、企業が発行する各種レポートには、他にサステナビリティ・レポート、SEGsレポート、ESGレポート、CSRレポート、などいろいろあります。これらのそれぞれの違いは何でしょか?

企業は社会的責任を重視し始めたことを背景に、財務情報と非財務情報をまとめて発行するようになりました。その表現の仕方として各種レポートがあります。

私自身もそれぞれのレポートに違いが明確にあるのか、実際にいくつか大手企業が発行するレポートの内容を分析してみました。

結論としては、各社それぞれのまとめ方をされていますが、レポート種別ごとに定義できるような明確な傾向はみられませんでした。

つまり、企業が発行する各種レポートは各企業の慣習で呼ばれており、定義として厳密な違いはないようです。