ゴールデンウィークを利用して、岐阜県立美術館で開催されている「清流の国ぎふ芸術祭 Art Award IN THE CUBE 2023」を訪れました。
4.8m(幅)×4.8m(奥行)×3.6m(高さ)のキューブ空間を利用して自由に表現をするという公募企画で、入選した14作品が展示されていました。
3回目となる今回のテーマは“「リアル」のゆくえ”

コロナ禍でデジタル化、AIの急速な発展を目の当たりにして、「リアル」とは?という疑問を抱いている人も多いのではないかと思います。
デジタルと現実の境界、人と人・自然と人・文化と人のつながり、地域とのかかわり、生活の変化など、この数年の急速な環境変化を根っこにした作品が多かったように思います。

私が一番印象的だったのは、床と3方の壁面に20万枚の1円が規則正しくぎっしり並べられた「One room」という作品です。

~小さな丸い金属が規則正しく並んだ床と壁面~

最初は、微妙に色の異なる小さな丸い金属が敷き詰められた空間なのかと思ったのですが、よく見ると丸い金属と思ったものは1円です。

~20万枚の1円硬貨~

製造年の違いなのか、使われた状況の違いなのか、微妙に異なる色の金属が並んだ様は、少し離れて見るととても美しいと思えました。
そのため、私はなんの躊躇もなく靴を脱いで敷き詰められた硬貨を踏んでキューブの中に突進しました。
一方、一緒に作品を鑑賞した友人は「お金を踏むなんて!」ということで、靴を脱いでキューブの中に入ることはしませんでした。

普段、あまり1円を意識することはありませんが、こうした仕掛けにより1円が貨幣であることを強く意識する人もいれば、1円の物質としての側面に興味を持つ人もいる。そこが作者の大きな狙いだったのでしょう。
人によって認識する「リアル」が異なることを提示する仕掛けを作るためにかけた時間を考えると、今流行りの「タイパ」とかいう観念は作家には通用しないことを思い知ります。

ものには、いろいろな側面があります。
何を「リアル」と感じるかは、その人の生まれ育った環境などによって異なるのでしょう。

日々の人とのつながりの中でも、「モノ」や「コト」には正解はなく、生き方や考え方でいろいろな見え方をするということを忘れないようにしたいと思いました。
あたりまえですが、異なる見え方をする人が繋がるからこそ面白い。
それをもっと面白がれる仕組みを、作家のように手間を惜しむことなく、みんなで作っていけたらいいなあ。
1円玉の経験はそんなことを思わせてくれました。まさにアートの力です!