先日、「刀剣乱舞歌舞伎」を観るため、新橋演舞場へ行って参りました。刀剣乱舞なるものは全く知らず、歌舞伎会のゴールド会員維持のための観劇です。観劇前の説明で、刀剣乱舞がゲームであること、刀の付喪神のお話であることなど、初めて知ったのでした。

演舞場にはこれまで全く歌舞伎を観たことがないであろう若い女性がわんさかつめかけ、ロビーはいつもの歌舞伎公演とは明らかに雰囲気が異なっておりました。

とてもびっくりしたのは、花道横すべての席に、「左(右)側花道につきお通り抜けできません。花道の上に物を置かないようお願い致します。」という貼り紙がしてあったこと。お客さまの中には、花道を知らない人がいるということなのでしょう。

歌舞伎仲間にその話をしたところ、SNSでは、歌舞伎を観に行くのが初めて、新橋演舞場が初めてという方から、どんな服装でいけばいいの?お弁当はどうするの?トイレは?さらには、拍手はいつするの?グッズは買えるの?という刀剣乱舞ファンの呟きが相当数あると言っておりました。

時同じくして、学芸員の知人からは、最近、国立美術館が出している「ソーシャル ストーリー」が注目されているという話を聞きました。
なに、それ?と思い検索をしてみたところ、「ソーシャルストーリー はじめて美術館にいきます。」というツールのことのようです。

▼東京国立近代美術館のソーシャルストーリーhttps://ncar.artmuseums.go.jp/assets/pdf/momat.pdf

【概要】
・美術館に入館する前から、退館するまでの流れを、わかりやすく説明したもの。
どのように美術館にアクセスしたらいいか、展示室やロビーはどんな様子か、どのように鑑賞したらよいか、などをやさしい文章と写真、絵や図を用いながら説明しているアクセスツール。

・主に発達障害のある人に向けて開発されたが、知的障害や学習障害のある人、外国にルーツを持つ人、子ども、初めて美術館に来館する人、美術館を訪れることにハードルを感じていた人など、誰もが使えるツール。

・当事者と関係者がお互いに理解し合い、安心できる状況をつくることを目的とし、社会的な状況や行為などを、絵や写真を使い、わかりやすい文章で表現。

・意味が正確に伝わることに加え、ポジティブな文章で伝えることもひとつのポイント。

美術館へのアクセシビリティを高めるため、まずは美術館に行くことのハードルを下げる、価値のある取り組みです。

ふたたび、刀剣乱舞歌舞伎。観劇の世界でも、ストレートプレイ、ミュージカル、宝塚、2.5次元など異なる文化があり、未知の領域に足を踏み入れるのは、なんとなく不安なものです。

「はじめて歌舞伎を観ます。」とか、「はじめて新橋演舞場に行きます。」いうようなソーシャルストーリーがあったら、コンテンツミックスの企画で歌舞伎に興味を持った人が、未知の領域に飛び込みやすくなるかもしれません。

さらには、海外にルーツを持つ人、歌舞伎をはじめ演劇を見ることにハードルを感じている人にも、安心して新しい体験をしてもらえる気がします。

先ほどの新橋演舞場の貼り紙なら、
「左隣は、「花道」という舞台の一部で、役者が出や引っ込みの時にお客さまの真ん中でお芝居をする大切な場所です。花道を横切ったり、物を置いたりしません。」と書かれていたら、一方的な劇場からの注意喚起ではなく、相互理解の上、初めて知る文化を楽しむことができるのだろうなあと思うのです。

私たちは、ローカライズや国際化のお手伝いをすることをビジネスとしております。
昨今では、「ピクトグラム」や「やさしい日本語」など、新たな視点の国際化にも取り組んでいます。また、カタカナで表現する日本人向けの英語のネーミングなど、ちょっと不思議なローカライズも手掛けています。

刀剣乱舞歌舞伎とソーシャルストーリーを知ったことで、私たちのこれまでの経験を活かして「だれでもどこでも」利用できる、アクセスできるコミュニティや施設を実現するための取り組みに貢献したいと思わせてくれました。