海外旅行に行った際、現地のおいしいものをとことん味わいたいと思うのはごく当たり前の欲望です。現地語で書かれたメニューでも写真さえあれば「これ」と指差すだけで、おおむね食べたいものにありつけますが、テキストだけのメニューだったり、写真を見てもどんな料理かわからなかったり、そうなるともうほとんど賭けのようなもの。この頃は文字の上にカメラをかざすとなんと書いてあるか翻訳してくれるアプリがあって、随分便利になったものです。

アラヤではメニュー翻訳のご依頼も多くいただいていますが、これにはけっこうコツがいります。ごく一般的な例えをいくつか紹介します。

まず、海外のメニュー名をそのまま「翻訳」しただけでは伝わらない場合。猫の舌(ラング・ド・シャ)、狂った水(アクア・パッツァ)、クリーム入りキャベツ(シュークリーム)…なんて日本語に直訳したらクレームものです。ただ、これらはもうすでに日本での地位も確立されている有名なメニューなので、もうカナ表記だけでいいパターンですが、このように音(読み)をそのまま表してもなんのことだか分からない場合は、簡単でかつ魅力的な説明をつけなくてはなりません。プーパッポンカリー(ソフトシェルクラブのふわふわ卵カレー炒め)、ガルショーク(きのこのつぼ焼きシチューパイ包み)などがその代表例といえるでしょうか。

さて、日本語から外国語にする場合ですが、SushiやTempura、Tofuなどは海外でも外来語として認識されていることばですが、ローマ字表記するだけではどんな料理か想像できないものについては、こちらも説明が必要になってきます。たい焼きだったらTaiyaki (fish-shaped pancake filled with red bean paste)、茶わん蒸しならChawan-mushi (savory steamed egg custard)などが簡潔かつポピュラーな英訳でしょう。間違ってもgrilled sea bream(焼いた鯛)とか、a steamed cup(蒸した茶碗)などと誤訳してしまわないよう、あまり冗長な説明をつけすぎないよう、注意と加減が必要です。それをよいところに決着させるのがプロの翻訳者と我々プロジェクトマネージャーとのチームワークとなるわけです。

ちなみに冒頭で登場した某アプリを使用して「三杯酢」をカメラで読み込んだところ、迷いながら一瞬「Three cups of vinegar」と表示され、さらに考え込んで「sanbaizu」と出ました。このあたりはまだ人間の力が必要なのかなと、ちょっとホッとしました。