秋になると、「そうだ京都、行こう」と思い立つ人も多いことと思いますが、私はどちらかというと奈良に行きたくなります。
紅葉を見に行くのではなく、仏像鑑賞が目当てです。

私の大好きな仏像のひとつに平安末期に運慶により造られた「円成寺大日如来坐像」があります。うん十年前、円成寺を訪れた時のこと。
訪問前日に近畿地方に上陸した台風の影響で、お寺周辺は停電の最中でした。お堂の中は真っ暗で、お目当ての大日如来がよく見えませんでした。

仏像を観に行く時には必ず懐中電灯と双眼鏡を持参するので、ご住職に「懐中電灯を使ってもいいですか」と尋ねると、「この仏像が造られた頃、電気はありませんでした。ここに座ってじっとしていれば暗闇に目が慣れてお姿が見えてきますよ」とおっしゃいました。

お言葉に従い、大日如来さまの目の前に座りじっとしていると、ろうそくのほのかな灯で仏様のお顔が浮かびあがりました。
その時、平安時代からその場に満ちている空気や時の流れを感じ、いたく感動をしました。

それまでは、懐中電灯と双眼鏡を使って仏像の細部を見ることに一生懸命でしたが、その出来事で少し異なる仏像との接し方を知った気がします。

造られた細部や美しさに興味を持つことと同時に、仏像がそこにある意味、大切に守られている理由に目をやることも大切であるとご住職に教えていただいたのだと思いました。

最近、デザイン賞応募サポートのプロジェクトで、お客さまの製品、サービスについて直接触れることが多くなりました。
私が心がけているのは、円成寺で学んだ、異なる視点を持って製品、サービスに接することです。大局と細部、能動と受動その両方を知ることで、対象の製品やサービスにより興味を持ち、理解を深めることができると信じています。

円成寺の大日如来坐像は、その後国宝に指定され、今は立派な多宝塔に納められています。ガラス越しにしかお目にかかれなくなりましたが、是非、奈良に行かれる際は訪ねてみてください。
※円成寺の住所は京都府ですが、奈良からのアクセスが便利です。