タイトルで「そんな言語あった?」と思った方もいるかもしれません。ナッドサッド語は『時計じかけのオレンジ』という映画で使われている人工言語です。数年前に映画を1度見たきりですが、いろいろな意味で強烈に印象に残っている作品なので、今回は言語に絞ってお話ししてみようと思います。
『時計じかけのオレンジ』はイギリスの作家、アンソニー・バージェスが発表した同名の小説を原作とした映画です。服装や雰囲気から現代が舞台ではないことはわかったのですが、映画が始まってすぐ私は唖然としました。字幕の意味がよくわからなかったのです。翻訳の質の話ではなく、聞いたことのない単語が字幕の中でたくさん使われていて、何の話をしているのかわかりませんでした。それがこの映画特有の言葉だとわかるように、紛らわしい言葉には傍点が振られている箇所もありました。その工夫のおかげで特殊な言語が使われているという状況は把握できましたが、セリフの内容を理解できないまま話が進んでいくので、混乱したのを覚えています。一旦離脱しようかとも思いましたが、続きが気になったのでとりあえず観ることにしました。
物語が進むにつれ、どんどん不思議な感覚になりました。なんと、最初は全く意味が理解できなかったナッドサッド語が少しずつわかるようになってきたのです。映画を観ていてこんな体験をしたのは初めてだったので、その感覚がとても印象に残りました。
考えてみるとこれは言語学習の過程と似ているような気がします。赤ちゃんは周りの人間が使う言葉を聞いて、状況と合わせて意味を推測して理解していくという話を聞いたことがあります。映画のなかで描かれる登場人物の言動や物語の展開をヒントに、意味を推測できるようになったのかなと思います。ちなみに、原作の著者であるアンソニー・バージェスは言語学者でもあったようで、言語に精通する方がどのように人工言語を作ったのかも興味深いところです(面白い設定ではありますが、字幕と小説の翻訳を担当した方たちは大変だったに違いありません)。
今使われている言語が将来的には消滅している可能性、今後新たな言語が生まれている可能性、どちらもあるでしょう。そうなった時に、翻訳は非常に意味のあることのように思いますし、言語とは本当に面白いものだなと思わせてくれた映画でした。
※映画は性暴力を含む暴力的なシーンが多いので、その点を事前にご注意いただければと思います。